マイニングにおける「神の見えざる手」 ― Proof of Workの経済学
たとえば、みんながほしくても、数が少なくて買えない商品があったとします。仮に、世の中に「イス」が足りなかったとしましょう。そうすると、まずイスの値段が上がります。イス屋は「こんなにほしい人がいるんだから、多少値上げしても問題ないだろう」と考えるので、イスの値段が上がるのです。 そして、この状況を見た人たちは「イスを作ったら儲かる」と思い、そのイス産業に参入してきます。その結果、市場に供給されるイスの量が増えて、結果的に買いたい人がみんな買える状態になるわけです。 ところが、イス産業にどんどん参入してきて、商品が余り始めました。となると、今度は反対にイスの値下がりが起こります。また「もうイスを作っても儲からない。違う職業を選ぼう」といってイス産業から撤退していきます。 その結果、イスの供給量が減って、「社会全体としてちょうどいい量」になります。つまり、一部の人だけが満足するのではなく、「売りたい人と買いたい人が全員満足できる状態」に落ち着くのです。 ここで重要なのは、各自は世の中のことを考えて行動しているわけではないということです。全体のイスの需給バランスを保とうとしているのではなく、ただ単に自分が儲かるかどうかで「参入・退出」を判断しているのです。各自が自分の利益しか考えていないのに、全体が最適な結果になっているわけです。冷静に考えるととても不思議なことです。だから「神様の仕業」「神の見えざる手」なのです。
太字は私が設定したもの。
この本ではイスの需要と供給に例えて、需要と供給が商品価格と収益性に影響を与えて社会全体としてちょうどよい供給量になるが、各々が自分の儲けだけ考えて参入・退出を判断していても全体が最適な結果に落ち着かせる、その力学を「国富論」を唱えた経済学の父、アダム・スミスは「神の見えざる手」と言った、と。
ビットコインなどのマイニング(のProof of Workというシステム)の難易度(Difficulty)調整はこれをプログラムで自動で行っていますね。イスの代わりに、各マイナーはブロックチェーンに新規ブロックを書き込むために必要なコンピューターの計算能力を提供しています。収益性が高いと分かると大勢が参入してネットワーク全体の計算能力が増えすぎる。すると設計された「約10分毎に1ブロック」より早くブロックが生成され、つまりブロックが生成されるということはすなわちそのタイミングで市場に(2018年9月時点で)12.5BTCが新規発行されることになるので、早すぎるブロックタイムは結果としてインフレにつながる。そうならないように(設計通り10分毎に1ブロックマイニングされるように)、計算課題の難易度を上げるようプログラムが自動調整します。
難易度を上げると、課題を解くために費やす時間は長くなり、その分多くの電気代を消費することになり、収益を圧迫します。結果、退出者が増え、やがてネットワーク全体の計算量は下がり始めます。
ネットワークの計算量が下がりすぎると「約10分毎に1ブロック」が保てなくなり、BTCを送っても着金しない・遅いという事態になります。すると今度は計算課題の難易度が下がり、より短い時間でマイニングできるようになり、収益性が改善され、結果としてマイナーが再参入し、ネットワークの計算量は再び上昇し始める(以後、繰り返し)。
マイニングにおいては、その力学は「神の見えざる手」ではなく、アルゴリズム。
ビットコインを考案したSatoshi Nakamotoは謎だから、まぁ”神”みたいなものだろうか。
難易度の自動調整の他にも、より早く計算課題をクリアした人(マイナー)に、ブロックに書き込む権利を与え、その報酬として12.5BTCを入手できるという競争原理を導入したことで、中央管理者がいない自立分散ネットワークにおいて、処理が滞りなく進むよう設計されています。
これら併せてよくできた仕組みだなぁと感動し、趣味も実益も兼ねてマイニングに取り組んでいます。まぁ今の相場では「実益」としては厳しい状況ですけどね。。
コメントを残す